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名古屋高等裁判所 昭和52年(ネ)186号 判決 1978年5月30日

控訴人

中部住宅工事株式会社

右代表者

丹羽長

右訴訟代理人

伊藤静男

外四名

被控訴人

日産プリンス三河販売株式会社

右代表者

大橋卓尓

右訴訟代理人

阿久澤英三

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は原審、当審(差戻前及び差戻後)並びに上告審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人が本件自動車を占有使用していることは当事者間に争いがない。本件自動車の所有権の帰属について検討するに、<証拠>によれば、本件自動車は、もともと被控訴人の所有に属するものであつたが、被控訴人は、昭和四三年六月五日訴外株式会社油やに対し、割賦金の支払いが完了するまで売主である被控訴人のもとに所有権を留保する旨の特約付き割賦販売の方法で本件自動車を売り渡したこと、ところが、右訴外会社が第一回分の割賦金の弁済期が到来したのに、これの支払いをしなかつたので、被控訴人は同訴外会社との間の右売買契約を解除したことが認められ、これによると、本件自動車は、いまなお被控訴人の所有に属しているというべきである。

二もつとも、<証拠>によれば、右訴外会社は、新、中古自動車、洋品、雑貨、油類等の販売を業とする会社であるところ、その営業の一環として、従前からメーカーの販売系列の末端に位置する被控訴人に対し、自動車の買手を紹介して売買契約を成立させ、被控訴人からなにがしかの手数料を徴していたこと、本件自動車もまた、被控訴人から右訴外会社に対して売渡されると同時にほぼこれと同一の条件で右訴外会社から控訴人に対して控訴人振出訴外会社宛の約束手形を徴して割賦販売の方法により売渡されていること、しかも被控訴人は、本件自動車につき道路運送車両法の規定に基づく登録手続をするにあたり、その使用者名義を被控訴人、訴外会社間の売買契約からみれば第三者にあたる控訴人とする旨の登録を経由し、自動車損害賠償保障に基づく保険の手続においても控訴人を保険契約者として手続をするなどの協力をしたこと、また、被控訴人は、訴外会社からの代金不払いを理由に訴外会社に対し前記のごとく契約解除の通知をなす前に、控訴人に対し、昭和四三年九月二四日付内容証明郵便をもつて本件自動車の同年六月五日付の売買契約の解除をする旨の通知をしたことがそれぞれ認められ、これによると、被控訴人は、右訴外会社に対し本件自動車を売り渡す際、これが右訴外会社の手を経て控訴人に対して売り渡されるものであることを予定し、かつ、承諾していたことは明らかであつて、この点からみると、本件においては、右訴外会社は、実質的には被控訴人所有の本件自動車が控訴人に対して売り渡されるにつきいわば仲介者類似の役割を果したことは否定できないところである。しかしながら、右のことからただちに、本件自動車に関する売買契約が、直接に被控訴人と控訴人との間に成立したものとみることは困難で、ことに前認定のように本件においては、本件自動車が一旦被控訴人から右訴外会社に対して売り渡されたうえ、更に右訴外会社から控訴人に対して売り渡されるという二段階の法律形式がとられていることを考えれば、被控訴人としては、その素姓や信用の不確かな控訴人に対し、直接に本件自動車を売り渡すことの危険をさけるために、被控訴人との関係では、本件自動車の売買に関する代金の支払、その他一切の法律上の責任を控訴人の紹介者である右訴外会社に負担させようとの意図のもとに、あえて前叙のような法律形式を踏むこととしたものと推認することができる。原審証人宇野利一の証言も右認定と必ずしも矛盾するものではないというべきである。してみると、被控訴人と右訴外会社間の本件自動車に関する売買契約は、それ自体実質的な意義を有し、控訴人のいうように、これをもつて単なる名目上のものとか、被控訴人とその実質的な代理商である訴外会社との間の内部関係を処理するための便宜的なものに過ぎないものと認めることはできない。

三次に、控訴人は、予備的に、訴外会社は本件自動車の売買契約につき被控訴人の代理商として被控訴人のため控訴人と売買契約を締結したものである旨主張するところ、<証拠>中には、訴外株式会社油やは、控訴人に対し本件自動車を売り渡すことにつき被控訴人から代理権を与えられていた旨の各供述部分があるけれども、右各供述部分は、それ自体あいまいなものであるうえ、前記認定判断に照らしてにわかに信用しがたくほかに右控訴人の主張を認めるに足る証拠はない。

四なお、控訴人は、本件自動車の所有権が被控訴人に留保されていたとしても、その所有権留保は内部的な当事者間にのみ効果を有するにとどまり、右契約の第三者である控訴人に対する関係では所有権は訴外会社に移転している旨主張するけれども、右主張を認めるに足る証拠はない。

五また、控訴人は、被控訴人と訴外会社との売買契約につき控訴人が民法第五四五条第一項但書にいう「第三者」に該当するから、被控訴人から訴外会社に対する契約解除をもつて控訴人に対抗できない旨主張するけれども、右法条にいう「第三者」とは、解除された契約から生じた法律効果を基礎として解除までに新たな権利を取得し、かつ、右権利取得につき対抗要件を備えた者を指称するものであるところ、控訴人が右の対抗要件を備えていないことは控訴人の自認するところであつて、右主張は失当である。

六ところで、控訴人は、被控訴人が訴外会社との間の本件自動車の売買契約を解除し、留保していた所有権に基づき控訴人に対し本件自動車の引渡しを求めるのは権利の濫用である旨主張するので以下判断するに、ユーザーがサブデイーラーからデイーラー所有の自動車を、割賦金の支払いが完了するまで売主であるサブデイーラーのもとに所有権を留保する特約付割賦販売方法で買い受け、その引渡しを受けた場合においても、ユーザーがサブデイーラーに対し売買代金を完済した時点以後においては、デイーラ−がユーザーのため車検手続を代行する等その売買契約の履行に協力しておきながら、サブデイーラーとの間で締結した当該自動車の所有権留保特約付売買について代金不払いを理由として右契約を解除したうえ、その留保所有権に基づいてユーザーに対し右自動車の返還を請求することは、予めユーザーにおいてサブデイーラーに対し売買代金を完済しても、サブデイーラーによるデイーラーとの間の売買代金支払いがない以上、当該自動車の所有権を取得することができないことを諒承していたなどの特別事情の認められない限り、ユーザーに不測の損害を蒙らせるものであつて権利の濫用として許されないものと解するのを相当とする。

そこで、これを本件について見るに、前記二において認定したところから明らかなごとく、被控訴人は自動車のデイーラーであり、訴外会社は被控訴人のサブデイーラーであつて、被控訴人は、昭和四三年六月五日訴外会社に対し、割賦金の支払いが完了するまで売主である被控訴人のもとに所有権を留保する特約付割賦販売の方法で被控訴人所有の本件自動車を売り渡し、訴外会社は、これと同時にほぼ同一の条件で控訴人に対し、控訴人振出訴外会社宛の約束手形を徴して割賦販売の方法により本件自動車を売り渡したが、被控訴人は訴外会社との売買に際し同訴外会社と控訴人との間の売買が行われることを予定し、かつ、承諾をしていたもので、本件自動車の登録手続をするにあたり使用者名義を控訴人とする旨の登録を経由し、自動車損害賠償保障法に基づく保険の手続においても控訴人を保険契約者として手続をするに協力をしたことが認められるうえ、右の各約束手形金はその後訴外会社に支払われ、現時点においては控訴人の訴外会社に対する売買代金が完済されていることは当事者間に争いがない。

しかも、控訴人においで訴外会社に対し売買代金を完済しても、訴外会社による被控訴人に対する代金支払いがない以上は本件自動車の所有権を取得することができないことを諒承していたなどの特別事情についてはこれを認めるに足る証拠はない。

してみると、被控訴人が訴外会社との売買につき訴外会社がその第一回分の割賦金の支払いをしなかつたことを理由として右売買契約を解除したうえ留保していた所有権に基づき控訴人に対して本件自動車の引渡しを求めることは控訴人に不測の損害を蒙らせるものであつて、権利の濫用として許されないものといわなければならない。

七以上説示のとおりであつて、被控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れないのである。<以下省略>

(村上悦雄 小島裕史 春日民雄)

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